セル育苗、苗を徒長させない管理とは??

暑い時期の育苗で、一番気になるのは「苗の徒長」 苗がひょろひょろになってしまう、足が長くなってしまう、その原因を調査してみました。

セル育苗、苗を徒長させない管理とは??

セル育苗で苗の徒長条件を調べてみた

徒長とは、茎が伸びすぎてしまうことで、一度苗が徒長してしまうと、元には戻せません。

徒長すると倒伏苗や曲がり苗となって健全に育たなくなり、定植の作業性も非常に低下するため、 徒長は育苗で絶対に避けたいトラブルです。

一般的に、苗の徒長の原因には以下のようなことが考えられます。

①日照不足
②かん水量過多
③風通しが悪い
④培土の肥料分が多い

今回はこれらの要因のうち、①日照 ②かん水量④培土の肥料分に着目し、キャベツのセル育苗で苗の徒長テストを行っていきます!

テスト条件は下表のように設定しました。

かん水量
多い+矮化剤
かん水量
多い
かん水量
標準
かん水量
少ない
日射十分試験区①試験区②試験区③試験区④
日射不足試験区⑤試験区⑥試験区⑦試験区⑧
日照×かん水量テスト
※テスト開始は2葉展開後から
日射十分日射不足
かん水量
多い+矮化剤
試験区①試験区⑤
かん水量
多い
試験区②試験区⑥
かん水量
標準
試験区③試験区⑦
かん水量
少ない
試験区④試験区⑧
日照×かん水量テスト
※テスト開始は2葉展開後から
培土の肥料分
N:80N:150N:200
培土の肥料分テスト

一番苗がひょろひょろになってしまうのは、どの条件でしょうか…?

キャベツの播種

以下の条件でキャベツの播種を行いました。

○品種:いろどり
○セルトレイ:128穴(ヰセキ純正)
○培土(※覆土はバーミキュライトを使用)

【日照×かん水量テスト】
ヰセキセル苗用培土 N:80

【培土の肥料分テスト】
ヰセキセル苗用培土 N:80、N:150、N:200

播種後は、日中の外気温が25℃以上であったため、風通しの良い日陰にトレイを積み重ね、その上から乾燥防止のシートをかけて発芽を待ちました。

セルトレイにキャベツの苗を播種したところ

箱並べ

播種から2日後に、発芽の目安になる覆土の盛り上がりが確認できたので、トレイをハウスに並べました。

実は、この箱並べのタイミングの見極めも、苗を徒長させない管理のポイントで、子葉が完全に見えるまで放置してしまうと、 子葉展開の時点で苗が徒長してしまいます。

播種の2日後に日照量とかん水量の試験用トレイをハウスに並べたところ
播種の2日後に培土の肥料分の試験用トレイをハウスに並べたところ

芽出し中の2日間はかん水を行いませんでしたが、ハウスに箱並べした後は一気に乾燥しやすくなるため、軽くかん水を行いました。

明日(6/11)~【日射×かん水量テスト】の開始までは、基本的にすべての苗に1ℓ/箱のかん水を朝と昼に計2回行っていきます。

補植と矮化剤の処理

子葉がしっかり展開しました。

発芽しなかったところや、奇形株には補植用に作っていた苗を植えなおしました。

子葉が展開してきた日照とかん水量の試験トレイの画
子葉が展開してきた培土の肥料分の試験トレイ

【日照×かん水量テスト】の矮化剤処理区の苗(試験区①試験区⑤)には、このタイミングで「スミセブン」という矮化剤を 1000倍希釈したものを100mℓ/箱、霧吹きで散布しました。

日照とかん水量試験区の①と⑤に散布する矮化剤のスミセブン
1000倍希釈のスミセブンをスプレーでトレイの苗に散布

【日照×かん水量テスト】開始!!

2葉目が展開してきたので、【日照×かん水量テスト】を開始します!

日照不足状況を再現するため、寒冷紗を使ってトンネルを作りました。

日照とかん水量の試験区で日照不足を再現するために寒冷紗で作ったトンネル

日照不足区の苗(試験区⑤~⑧)は、今日からこのトンネルの中で管理していきます。

また、かん水量も今日から試験区ごとに多い・標準・少ないと3段階の変化をつけていきます。

それぞれの条件で苗の成長はどうなっていくのでしょうか…?

徒長の兆しあり…!?

寒冷紗トンネルの有り無しが、実際の日射量や気温、地温にどのように影響しているのかを調べるため、 寒冷紗幕の内外にハウス内の環境モニタリング装置「ハウスファーモ」を設置しました。

ハウスファーモでは、気温生長点温度地中温度CO₂濃度湿度日射量飽差地中湿度の8つのデータを 計測することができます。(ハウスファーモについて詳しく知りたい方はこちら

6月25日の13時半のデータはそれぞれの試験区で以下のようになりました。(ちなみにこの時の天気は晴れです。)

ハウス内にハウスファーモを設置して日照が十分な試験区を測定したデータのスクリーンショット
ハウス内にハウスファーモを設置して日照が不十分な試験区を測定したデータのスクリーンショット

遮光トンネルの影響で、日射十分区の日射量472.8W/m²に対し、日射不十分区では日射量が45W/m²1/10以下 になっていることが分かりました!

気温や地温も遮光トンネル内は3~5℃ほど低くなっていました。

さて、これらの差は苗の成長にどんな影響を与えているのでしょうか…?

その様子はこちら↓↓

日照×かん水量テスト

日照とかん水量の試験トレイで矮化剤を処理していない試験区
日照とかん水量の試験トレイで矮化剤を処理した試験区

矮化剤を処理していない試験区②~④、⑥~⑧を見比べると、 日射不十分でかん水量の多い試験区⑥と日射不十分でかん水量が標準の試験区⑦の第2葉の葉柄が他の試験区よりも長くなっていました!

やはり、日照不足が大きく影響しているようです。

培土の肥料分テスト

培土の肥料分の試験トレイの写真。肥料分が多い苗が少ない苗に比べて苗丈が伸びている

培土の肥料分が多い苗N150N200も標準のN80より 苗丈が伸びてきていました。

同じく徒長の兆しが見える日照不十分の苗よりひょろっと感が 薄いのは、茎がある程度太いからでしょうか…??

徒長が進んで倒れてしまう苗がでてくるのか、来週も引き続き様子を見ていきたいと思います!

テスト終了!!【最終結果】

播種から27日が経過し、苗も完成したのでテストを終了して結果を見てみたいと思います!!

ちなみに、【日照×かん水量テスト】を行った期間は13日間になりました。

各試験区の苗たちはどうなているでしょうか…?

その様子はこちら↓↓

日照×かん水量テスト

育苗が完了した日照とかん水量の試験トレイ。試験区1~4の苗の写真

日照が十分で、かん水量も標準の試験区③ではしっかりとした苗が育っていました。

一方で、かん水量が多かった試験区②では苗丈が1cmほど長く、少しひょろっとした印象の苗ができていました。

育苗が完了した日照とかん水量の試験トレイ。試験区5~8の苗の写真

日照十分区に対し、寒冷紗トンネルで遮光をして日照が不十分だった試験区では、かん水量を控えた試験区⑧でも試験区②と同程度の徒長気味の苗ができていました。

さらに、かん水量が標準・過多の試験区⑦・試験区⑧では基準となる試験区③より苗丈が3cm以上も長く、倒れ気味の苗に…!!テスト中に展開した第2葉の葉柄がかなり細長くなっていることで、倒れやすく、扱いにくい苗になっているようでした。

日照が不十分な環境では、通常よりもかん水量を控えめにしなければ苗が徒長してしまうことがわかりました!

培土の肥料分テスト

育苗が完了した培土の肥料分の試験トレイの写真

培土の肥料分が多いN150とN200の苗も、苗丈が長くなっていました。ただ、これらの苗は全体的に大きくなっていて葉柄もあまり細くないため、日照不十分区の苗よりはしっかりとした印象でした。

今回のテスト結果をまとめると、やはり日照不足、かん水量過多、培土の肥料分過多のすべてが苗の徒長の原因になっていることがわかりますが、

その中でも日照不足に要注意!!!

曇天の日が続く場合や、ハウスが高温になるのを避けるために遮光する場合は、かん水量や培土の肥料分に注意し、様子を見てかん水量を控えるなどの調整が必要です!

丈夫な苗を作って、秋作を成功させましょう

執筆者

井関農機(株)

井関農機(株)

農業機械の開発、製造、販売を行う農業機械総合専業メーカー。1926年創立以来、農業の機械化・近代化に貢献。魅力ある「農業=儲かる農業」の実現に向け「ハード(農業機械)」と「ソフト(営農技術)」の両面からお客さまの営農スタイルに合ったベストソリューションの提供に取り組んでいる。

執筆者

井関農機(株)

井関農機(株)

農業機械の開発、製造、販売を行う農業機械総合専業メーカー。1926年創立以来、農業の機械化・近代化に貢献。魅力ある「農業=儲かる農業」の実現に向け「ハード(農業機械)」と「ソフト(営農技術)」の両面からお客さまの営農スタイルに合ったベストソリューションの提供に取り組んでいる。