木更津市との連携 水稲スマートオーガニック栽培

井関農機は、千葉県木更津市と協力して、遠隔で雑草を抑えるための「水管理技術」と、発生した雑草を取り除く「除草技術」を組み合わせた「スマートオーガニック栽培」に挑戦します。

木更津市との連携 水稲スマートオーガニック栽培

井関農機と木更津市との連携協定

千葉県木更津市は、「オーガニックなまちづくり」を市の重点方針として掲げており、2019年度から市内で生産された有機米を市内公立全小中学校の学校給食に提供するなど、有機農業の推進に積極的に取り組んでいます。

こうしたなか、2019年に開催した「第21回米・食味分析鑑定コンクール:国際大会in木更津」に井関農機が出展したことを契機に、有機農業を技術面からサポートし盛り上げるため、2021年3月に連携協定を結ぶこととなりました。

有機水稲を栽培するうえで一番の課題となっているのは、雑草防除対策です。スマート農業関連商材である「水位センサー」や「水田除草機」等の実践・検証を行うことで、課題解決を図ります。

木更津市と井関農機の連携協定締結式
2021年3月26日 木更津市役所で開かれた連携協定締結式

有機水稲栽培の育苗について

木更津市で有機栽培を行っている品種は「コシヒカリ」です。

水稲有機栽培での育苗で大事なポイントは、中苗以上の充実した苗を作ることです。

・・・なぜなのか?

有機栽培では雑草を予防する対策として「深水管理」が有効とされています。中干しまで、7㎝以上の水位を保つことで、田面付近の溶存酸素を減らすとともに、水圧をかけて雑草の生育を抑えます。稚苗では田植後に苗が水没する恐れがあることから、中苗以上の大きく充実した苗を作ることが大事になってくるわけです。

写真の苗は播種後28日目。草丈も23cm程度に大きくなりました。

木更津市の場合は、播種後30日~40日で田植えを行っていきます。

草丈が23cm程度になった播種後28日目の苗
草丈は約23cm、播種量は苗箱1枚あたり乾籾80g
育苗中の苗
ハウス内での育苗(マット苗)

水管理技術による雑草予防への挑戦! 水位センサー・水田ファーモ

水稲有機栽培では、雑草を予防する対策として「深水管理」が有効とされています。

田植え後の深水管理を徹底するため、田植が終了した5月下旬に水位センサー・水田ファーモを木更津市内の水稲有機栽培生産者様11名の圃場に設置しました。

木更津市内のほ場に設置した水位センサー「水田ファーモ」
木更津市内に設置した「水田ファーモ」
木更津市内に設置した水田ファーモの位置を示した地図画面のスクリーンショット
木更津市内の「水田ファーモ」設置状況
木更津市役所とISEKIの担当者がほ場に水田ファーモを設置・確認している画像
木更津市役所の方と一緒に「水田ファーモ」の確認

除草技術による雑草除去への挑戦! 水田除草機・WEEDMAN

水稲有機栽培では除草剤が使えないため、手作業などで物理的な除草を行います。しかし、除草作業の時間は慣行栽培と比べて約6倍かかるなど、有機水稲の取り組み拡大には除草作業の省力化が課題となっており、各種水田除草機が提案されています。

水田除草機の中で、注目を集めているのが、オーレック社の乗用機械除草機・「WEEDMAN」です。1行程で、条間と株間を同時に除草できるため、除草時間を大幅に短縮でき、全国各地の有機水稲生産者様に高い評価をいただいています。

今回は、木更津市内の水稲有機栽培生産者様2名の圃場で、WEEDMANの実演を行います。田植後10日ごろに1回目、以降10日間ごとに2回目・3回目の作業を行う予定です。草が抑えられることを期待しています!

オーレック社の水田除草機「WEEDMAN」の切り抜き画像
水田除草機・WEEDMAN
8条仕様と6条仕様があります
WEEDMANの除草部の拡大画像
除草部 爪とレーキが回転しています

WEEDMANでの除草作業 1回目

6月8日、有機水稲生産者様2軒の圃場で水田除草機・WEEDMANでの1回目の除草作業を行いました。

実演会の形で行い、1軒目の圃場では15名近くの方、2軒目の圃場でも10名近くの方にお集まりいただきました。生産者様のWEEDMANに対する期待の高さがうかがえます。

実演会で参加した生産者がWEEDMANの仕組みを確認している
参加者でWEEDMANの仕組みを確認

実証圃場では除草剤を一切使用していないうえに、田植後は気温が高かったため、早くもコナギ等の雑草が生えてきていますが、WEEDMANは生えてきた雑草を根こそぎ取り除いていきます。水面には根から抜けた雑草が多く浮かんでいました。

除草作業で除草されたコナギ
WEEDMANで根から取れた「コナギ」
除草作業後にコナギが浮いているほ場の拡大画像
作業後の様子 抜けた「コナギ」が多数浮かんでいる

また、圃場には藻(アオミドロ)が多く発生していますが、WEEDMANの作業で藻を埋没させることができました。

除草作業前の有機水稲ほ場に雑草とアオミドロが発生している様子
右側が作業前 雑草だけでなく「アオミドロ」も発生している

作業中に倒れたイネが若干あります。気になるところですが、根が抜けていなければ数日後には立ち上がる予定です。

2回目の除草作業で途中結果を確認してみましょう。

草が取れる様子は動画をご確認ください。↓

WEEDMANでの除草作業 2回目

6月17日、WEEDMANでの除草作業2回目を行いました。

前回の作業から9日後ですが、やはり雑草は手ごわい・・・すでに「コナギ」が生えてきています。でも、これは想定内。機械除草で大事なことは、草が小さいうちに早め早めの除草を行うことです。繰り返し除草作業を行うことで、雑草を退治します。

WEEDMANの進行方向に雑草が繁茂している様子を示した除草作業
前回の作業後に生えた草を除草していきます。

前回の除草作業で心配になった倒れた稲も、ちゃんと立ってきています。

作業時の稲の草丈を表した画像。35cm~40cm程度に生育している様子
稲の草丈は35~40cm程度。しっかり立っています

今日の作業でも、WEEDMANが通った跡は雑草が再び見えなくなりました。条間だけでなく、株間もしっかり草が取れています。

WEEDMANで作業した後に雑草が除草されたほ場
WEEDMAN作業後の様子 雑草はほとんど見えていません

稲の草丈は35cm~40cmと大きくなりました。もう少し稲が成長すると、稲が水面を覆うようになり、遮光効果で雑草を抑制します。

稲が大きくなると、雑草との闘いも終わりが見えてきます。

水管理技術による雑草予防の挑戦! 水位変化確認

深水管理のため、水田ファーモを設置してから約1ヶ月経ちました。

木更津市内は砂地の圃場が多いため、少し油断すると水位がすぐに下がってしまいます。

ファーモはスマートフォンで水位を確認できるため、水位が下がってもすぐに対応可能です。グラフを見ていても、10cm以上の水位がキープできています。

深水管理は中干まで続けます。

水田ファーモで計測した水位データを表示しているアプリのスクリーンショット
スマートフォンでの水位確認画面

WEEDMANでの除草作業 雑草チェック

WEEDMANでの除草作業から約2か月経ちました。出穂時期を迎え、作業した圃場はどうなっているでしょうか?

8月7日に雑草のチェックを行いました。

出穂期の試験ほ場
8月7日撮影 WEEDMAN除草圃場
除草作業を2回実施

圃場の一部で、雑草の取り残しが発生し、コナギが発生している場所がありましたが、多くの場所では雑草を抑えることが出来ています。

出穂期の試験ほ場の雑草の様子
一部でコナギが発生していたが、 草の発生を抑えている場所が多かった。
出穂期の試験ほ場で除草が上手くいった条間と株間の画像
草をしっかり抑えています。 条間だけでなく株間も除草できています。

田植直後は小さかったイネも、この時期になると草丈は115~125cm程度と大きく成長しています。ここまでくると株元に光が当たらないため、雑草は成長しにくくなります。

茎数は50株植えで1株あたり約23本となっています。農薬等を使用しない有機栽培の水稲としては、十分な茎数ではないでしょうか。

出穂期の試験ほ場の稲の草丈を計測
イネの草丈は115~125cm

水田除草機の作業では、特に枕地旋回時にイネを埋没させてしまうことで発生する欠株を気にされる方が多いかと思います。今回の実証圃場でも枕地で欠株が発生していましたが、そのかわりに欠株周囲では1株あたりの茎数が約49本となりました!

除草作業時に枕地周辺が欠株しているほ場の画像
枕地周辺での欠株
茎数が多くなりすぎた欠株周辺の稲
欠株周辺のイネ 分げつ数52本 茎数が多く片手で握りきれない

2倍近くの分げつが取れています。欠株があっても、収量の面では十分カバーできそうです。

これから、木更津市は実りの秋に向かっていきます。

マット苗での育苗と中赤外線シートの効果確認

今回は話題を変えて、育苗に関する取組についてご紹介いたします。

「有機水稲栽培の育苗について」でも触れましたが、水稲有機栽培では雑草を予防する対策として、移植直後から中干しまで7cm以上の水位を保つ「深水管理」が効果的とされています。

「深水管理」の場合、稚苗では田植後に水没する恐れがあることから、中苗~成苗の大きく充実した活着の良い苗を作ることが大事になってきます。

これまで、木更津市では成苗育苗が行いやすい「ポット育苗」を行ってきました。しかし、「ポット育苗」にはポット苗専用の育苗箱や田植機が必要なことから、新たに水稲有機栽培に取り組もうとする生産者にとっては、ハードルが高い場合があります。

中赤外線シートを使用して育苗したポット苗
「ポット育苗」の様子

そこで、今年から一般的によくみる普通の水稲苗「マット苗」で、生産者様が既に所有している普通の田植機を使って、「ポット育苗」と同等の品質・収量の確保が可能かどうかトライしています。

「マット苗」でも、中苗~成苗の大きく充実した活着が良い苗を作ることが大事です。そこで、生産者様の協力を得て、成長を促すために試験的に中赤外線を発するシートを苗箱の下に設置し、効果の確認を行いました。

シートから発生する中赤外線には植物体の代謝を良くさせ、健全な苗づくりに効果があるとされています。

苗箱の下に敷いた中赤外線発生シート
苗箱の下に敷いた中赤外線発生シート
中赤外線シートが中赤外線を発生させているイメージ画像
中赤外線発生のイメージ

播種後28日目に育苗した苗を確認すると、中赤外線シートを使用した方が、苗箱の穴から出ている根が多いように見えます。

中赤外線発生シートを使用して育苗した苗と使用せず育苗した苗の根張りを比較した画像
中赤外線シート区の方が、苗箱から根が多く出ているように見える
中赤外線発生シートを使用して育苗した苗と使用せず育苗した苗の比較画像
草丈に大きな違いは見られない

生産者の方には、中赤外線シートを使ったマット苗と普通のマット苗を別々の圃場に田植して有機栽培で管理していただき、8月31日に収穫を迎えました。

収穫当日に木更津市役所の方が坪刈りを行いました。これから収量・品質の調査を行います。

WEEDMANでの除草作業 収獲前の様子と収量調査

実りの秋を迎え、WEEDMANで除草した圃場がどうなっているか、大いに気になるところです。

これまで、木更津市内の水稲有機栽培生産者様2名の圃場で、WEEDMANの除草作業実証を行ってきました。両生産者様のWEEDMAN除草圃場も、無事に収穫の時期を迎えました。

WEEDMANで除草した圃場の収穫直前の全景画像
収穫直前の圃場全景

地面に雑草が残っている場所が圃場内に一部ありましたが、多くの場所で収穫時期まで草を抑えることが出来ました。刈取時期に草が多く残っていると、コンバインでの収穫時に支障が生じますが、草も少なく、コンバインでの収穫も順調に行えそうです。

WEEDMANで除草した圃場で条間と株間の除草が成功している様子
条間・株間もしっかり除草出来ています

このうち圃場1枚で、9月8日に千葉県君津農業事務所様と木更津市役所様の協力をいただき、坪刈り調査を行いました。

収量結果がどのようになるのか、乞うご期待です。

WEEDMANで除草した圃場の坪刈り調査

執筆者

井関農機(株)

井関農機(株)

農業機械の開発、製造、販売を行う農業機械総合専業メーカー。1926年創立以来、農業の機械化・近代化に貢献。魅力ある「農業=儲かる農業」の実現に向け「ハード(農業機械)」と「ソフト(営農技術)」の両面からお客さまの営農スタイルに合ったベストソリューションの提供に取り組んでいる。