【愛知】ジャンボタニシ対策×水田ファーモ

水稲生育初期の食害で問題となっているジャンボタニシ。一般に浅水管理にすることで行動が鈍くなり被害が軽減するとされますが、圃場多数の場合、わかっていても管理は難しいもの。

そこで、水田センサーと給水ゲートを使って浅水管理を行い、省力的にかつ確実に対策ができるか実践してみました。

【愛知】ジャンボタニシ対策×水田ファーモ

通信機・水位センサ・給水ゲートの設置

■使用した機器

(株)farmo社製
水田ファーモ 水位センサー・・・・型式FA-PL03A
水位水温センサー・・型式FA-PL03B
給水ゲート・・・・・型式FA-PG02A

■場所:愛知県西尾市

■品種:コシヒカリ(4月下旬移植)

■設置の手順

通信機→水位センサ&ゲートの順番です。

①通信機を設置し通信網をつくる。
②通信機のそばで水位センサを組み立て、水位センサのスイッチを入れる。
③水田ファーモのアプリをインストールし、水位センサ本体IDをアプリ上で登録する。
④アプリ上で水位センサーのよんだ数値が出る→通信できている
⑤圃場に水位センサと給水ゲートもっていき、設置する。

ポイント

圃場に水位センサーをもっていく前に、通信機の横でセンサが通信できるか確認すること。こうすることで、仮に圃場で通信できなくても、その原因が通信機とセンサの距離にある(=通信圏外)と判断できます。

水田ファーモと給水ゲートを試験圃場に設置している画像
■水位センサと給水ゲートの設置風景
設置の際は固定用の杭をさすのにハンマーをもっていくといいです。

作業指示がしやすくなった!

連休もあけて、4月までおとなしかったジャンボタニシが活発になってきました。

ところで浅水とは何センチをさすのでしょうか。あまり浅すぎても、稲の生育がすすみませんので、浅ければいいわけでもありません。また、現地圃場では海に近いこともあり、あまり干しすぎると塩が上がってくる問題もあります。

というわけで、今回は3㎝位を目安に実証をスタートしました。

しかし・・・・この深さではやつらは動くことができ、しっかりとイネを食べていたのです・・・

ジャンボタニシ対策で水田を浅水状態にした画像。この実証では3cmからスタートしたが深すぎたので2cmに変更して対策した
■水位センサ未設置圃場
達観では浅水にみえるけどタニシは動いている

この反省から、水深の目安を3㎝→2㎝に変更しました。

写真の圃場は水位センサを設置しておらず対応が遅れましたが、センサを設置している圃場では対応がスムーズにでき、被害を最小限におさえることができました。

このわずか1㎝の変更を従業員皆で共有するのも、水位センサーが助けてくれます。

従来「ちょっと浅くして」

今回「水位センサの数値で2㎝にしておいて」

従業員への指示が具体的にできますね。

試験圃場に設置した水田ファーモの計測データを表示したアプリ画面のスクリーンショット

麦刈りで忙しいときでも安心!

愛知県西尾市では稲・麦・大豆のブロックローテーションが行われており、シーズン通して大変忙しくしております。

悩ましいのは、麦刈り時期がちょうど田植え直後のため、田植え後の水まわりにあまり時間がさけない点。

田植え直後の水管理を怠ると雑草やジャンボタニシの影響をうけるリスクが高くなります。

試験圃場付近で麦を栽培している圃場の画像。ジャンボタニシが活動するシーズンと麦の収穫時期が重なり忙しいシーズン
■西尾市南奥田町の麦

水管理に時間を割きたくても、市をまたいで点在する圃場を水まわりすると、どうしても半日以上かかってしまいます。軽トラから降りて水口をあけての操作は時間がかかり、車の燃料代もばかになりません。

実証先の生産者様は、水位センサー40本以上、給水ゲート15本以上を設置。今年から本格導入です!

水位センサーがあることで、必要な圃場にのみ水まわりをしぼることができます。また給水ゲートを設置した圃場では水位確認できるだけなく、遠隔的に給水・止水をコントロールできます。

ある程度まとまった数のセンサ&給水ゲートを設置した効果もあり、今年は麦刈り集中することができたようで、生産者様も満足そうでした。

頻度としては、昨年までこの時期毎日水回りしていましたが、ここまでのところ今年は3日に1回、5日に1回とだんだん少なくなってきています。

センサの設置場所

水位センサーの設置場所って迷いますよね。最初は水口付近にしてましたが、途中から水尻に設置するようにしました。水尻の方が少し低いため、水尻が浅水なら水口も浅水と判断できるからです。

ジャンボタニシは移動する生き物なので、全体的に浅水にしなければ意味がありません。

水田ファーモの推奨設置場所を説明した画像。ジャンボタニシ対策には圃場全体を浅水状態にする必要があるため、圃場内の低い地点に設置するのがよい
水尻に設置した水位センサー

その他ポイントとしては

①センサー周辺に干渉物のない場所
センサーに稲の葉が干渉すると、水深を深く判断してしまうするため、設置箇所の苗をあらかじめ1~2株抜いておきます。

②収穫時に見つけやすい場所
センサーの背は収穫期になる頃には、稲に覆われで品種によっては完全にかくれてしまい見つけにくいかもしれません。そのため、圃場外周など見つけやすい場所にします。

生育に差がでてきました!

6月に入り、4月中旬以降に植えたコシヒカリが中干し時期に入りました。

水位センサーと給水ゲートを設置した圃場の稲はジャンボタニシの影響を最小限におさえ、元気にそだってます。

6月になり中干し時期になった試験圃場の画像。水田ファーモを設置して管理した圃場ではジャンボタニシの影響を最小限に抑えられている
■水位センサと給水ゲートを導入している圃場
6月になり中干し時期になった対照圃場の画像。ジャンボタニシの食害で植え付けた苗が一部歯抜けになっている
■対照区(水位センサをと給水ゲートなしの圃場)
タニシの食害で一部歯抜けになっている。

この時期になると、試験区(センサを使った浅水管理圃場)と対照区とで、稲の生育に明らかな差がでてきました。対照区の食害はひどく、茎数の数が試験区の半分以下です。

対照圃場の稲の生育の画像。ジャンボタニシの食害の影響で、茎数の数が試験圃場の半分以下となっている
■対照区
5本程度の茎数で分けつが少なく、欠株になっている箇所が多い。
試験圃場の稲の生育の画像。ジャンボタニシの被害を最小限に止められており旺盛な生育で欠株も少ない様子
■試験区
20本以上の茎数で旺盛な生育。欠株になっている箇所も少ない

注目すべきところは、試験区・対照区ともにジャンボタニシが数多くいることです。

試験区ではタニシがいても、センサと給水ゲートで浅水をキープし続けることで、活動量を最小限にし稲を食害からまもっています。

一方、対照区は水回り時に浅水を意識していたものの、試験区ほどこまめに入水・止水ができておらず、食害をうけています。

水が深いとタニシが動いて食害にあい、かといってカラカラに乾かしてしまうと、食害は防げますがイネの生育が進まず、結局茎数をかせぐことができません。

絶妙な水加減が必要なんですね。

手動と勘に頼る水管理では、タニシの活動量に人間の活動量が負けてしまい、稲が食べられてしまいます。

センサ+給水ゲートは給水・止水の自動化と遠隔管理を実現してくれます。限られた時間と人で多くの圃場を管理する上で強い味方になってくれます。

ジャンボタニシを数えてみよう

田植えから一カ月。実際、この圃場にはタニシが何匹いるのでしょうか。愛知県の農業改良普及課の方に協力して頂き、タニシを数えてみました!

【調査】

圃場4隅の条間(0.3m)×10mの調査区内で実施

試験圃場のジャンボタニシを目視でカウントしているところの画像
■2cm以上のタニシを目視でカウント

【 結果】

調査区内で、123匹 確認

試験圃場の条間にジャンボタニシがいることを示した画像。タニシは多いが稲への食害は少なかった
■条間の様子

思ったよりいっぱいいた…!!

たくさんいる割には稲への食害は少ない印象です!水位センサーと給水ゲートがしっかりお仕事してくれているようです。

しかし、どうしても食害が発生してしまうのが、圃場の4隅の角。水深が他の場所よりも深くなり、タニシが集中しやすいのです。

試験圃場の4隅の角の画像。水深が深くなりやすくジャンボタニシが集中しやすい地点
■圃場水口側 角

【対策】

  1. 圃場の均平度を上げる
  2. 初期の薬剤散布
  3. 浅水管理の継続

タニシ被害の軽減には上記の作業が欠かせないと言えます。

今回の調査にて、かなりの数のタニシが確認できましたが、ここまで増えると石灰窒素を散布し、個体数を減らすしかありません。

また、タニシの活動量には水温がかかわるようで、散布時期の見極めが必要です。

次回、収穫後に石灰窒素を使用する際には、水温センサの値を活用し、タイミングを図りつつ効率的に防除できればいいなと計画しております!

水温センサーと石灰窒素でジャンボタニシを撃退!

秋、稲刈りシーズン真っ只中ですが、ジャンボタニシへの反撃の手を緩めることは許されません。

来年度の田植えに向けて、稲刈り後の今からジャンボタニシに備えます!!

今回、用意したのはコチラ、 石灰窒素 です!

試験圃場に散布する粒状石灰窒素の画像。ジャンボタニシの個体数を減らすために稲刈り後の秋に圃場へ散布する
■機械散布に適した粒状を使用。
農薬と肥料の両方の登録を受けているものになります。

石灰窒素がタニシ対策に効くとされている所以は、水分と反応して分離されるシアナミドという成分が、殺虫・殺菌効果を持つためなんですね。

とはいえ、タニシが憎いからとじゃんじゃん撒いてしまっては、稲の倒伏や、玄米タンパク質含量の上昇の恐れもあります。

石灰窒素は20~30kg/10a 施用、 10aあたりチッ素成分4kgに相当する量を撒きます。

また、残留チッ素の影響を考慮すると、散布時期は代掻き前の春よりも、稲刈り後の秋がベターです。

さらに、防除のポイントとして、水温17℃以上のときに3~4cm水を張り、1~4日放置してタニシを活動状態にするとのこと…

ここで、ファーモの水温センサーの出番ですよね!!

この日のために事前に収穫後の田んぼに入水し、センサーをさしておきました!

サッとスマホを取り出して、アプリで確認します。

水田ファーモの水温センサーが計測したデータを表示したアプリのスクリーンショットと、センサーが圃場に設置されている画像
■収穫後の田んぼに設置した水田ファーモ

水深・水温ともにバッチリですね。では、撒いていきます。

粒状石灰窒素をブロードキャスタに投入している画像
■ブロードキャスタで散布
マスクと手袋必須です…
粒状石灰窒素を圃場に散布している画像
■少々風が強かったので、周辺の作物等に注意しながら行いました

田んぼ全面に散布して、3~4日間は湛水を保つ必要があります。

石灰窒素は魚毒性が高いことから、散布後、強制落水せず、自然落水させてください。

ちなみに当のタニシは相変わらずたくさんうごめいておりました。

粒状石灰窒素を散布した直後の圃場の画像。散布直後なのでまだジャンボタニシが圃場にいるイメージ
■この時期でもかなりの数のタニシを確認

ジャンボタニシの駆除は、その地域全体で取り組まなければ効果が期待できません。

今回は、周辺の田んぼを所有されている方々と協力して、一斉に散布を実施しました。

結果は、春までお楽しみです

最後に、水田ファーモといえば水位センサーのイメージですが、実は、「FA-PL03A(水位センサー)」と「FA-PL03B(水位+水温センサー)」と2つあります。

今回は水温センサーが付いている方です。色んな使い方がありますね。

執筆者

ISEKIグループ

ISEKIグループ

2025年、井関農機が創立100周年を迎える記念の年に、国内広域販売会社6社と三重ヰセキ販売、井関農機 営業本部が統合し、新たに「ISEKI Japan」としてスタートしました。

これからも、私たちの「地域で農業を営む皆さまを一番近くで支えていきたい」という熱い思いを胸に、農業に関わるあらゆる場面で、日々皆様のお役に立てるよう努めて参ります。

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2025年、井関農機が創立100周年を迎える記念の年に、国内広域販売会社6社と三重ヰセキ販売、井関農機 営業本部が統合し、新たに「ISEKI Japan」としてスタートしました。 これからも、私たちの「地域で農業を営む皆さまを一番近くで支えていきたい」という熱い思いを胸に、農業に関わるあらゆる場面で、日々皆様のお役に立てるよう努めて参ります。