実証
2024.01.31
BS資材を使って大豆の有機栽培
バイオスティミュラント資材を使って大豆の有機栽培を行います
- 概要テーマ登録日2023.09.04BS資材を使って大豆の有機栽培
- レポート1最終更新日2023.09.04BS資材について
- レポート2最終更新日2023.09.045/16 堆肥施用
- レポート3最終更新日2023.09.065/17 耕耘
- レポート4最終更新日2023.09.075/17 明渠
- レポート5最終更新日2023.09.076/6 施肥①
- レポート6最終更新日2023.09.086/6 施肥②
- レポート7最終更新日2023.09.086/27 播種準備
- レポート8最終更新日2023.09.086/27 播種
- レポート9最終更新日2023.09.087/4 播種後1週間
- レポート10最終更新日2023.09.087/10 発芽
- レポート11最終更新日2023.09.087/14 初生葉展開
- レポート12最終更新日2023.09.087/19 中耕作業①
- レポート13最終更新日2023.09.127/31 中耕作業②
- レポート14最終更新日2023.09.148/5 開花期
- レポート15最終更新日2023.12.268/18
- レポート16最終更新日2023.12.269/12
- レポート17最終更新日2023.12.269/29
- レポート18最終更新日2023.12.2610/17
- レポート19最終更新日2024.01.3111/24 サンプリング
- レポート20最終更新日2024.01.31まとめ
テーマ登録日2023.09.04
BS資材を使って大豆の有機栽培
大豆は豆腐や味噌など加工食品の原料となり、私たちの生活と切っても切れない関係です。大豆の生産動向に目を向けてみると、国内の大豆自給率は7%(R3)となっており、気象条件で収量の振れ幅も大きいため国産大豆の市場価格が不安定な一因となっています。また、海外産大豆は高温干ばつ等による生産減、ウクライナ侵攻による物流の乱れ等により、大豆価格の上昇が見られ国内需給が逼迫しています。このような状況を受け国は大豆の需給安定化に向け、国産大豆の増産を推進しています。また世界的な気候変動や食料需給不均衡を背景に、国はみどり戦略を策定し環境負荷低減農業の推進も同時に図っています。ヰセキではBS資材(バイオスティミュラント資材)に着目し、生育向上と環境負荷低減型農業の検証ということで大豆の有機栽培に取り組んでみました。
最終更新日2023.09.04
BS資材について
バイオスティミュラント(Biostimulant)は直訳すると「生物刺激剤」です(以下BS資材とする)。
BS資材とは「干害、高温障害、塩害、冷害、霜害、酸化的ストレス(活性酸素によるダメージ)、物理的障害(雹や風の害)、農薬による薬害など、非生物的ストレス(Abiotic stress)に対する抵抗性を高め、結果的に増収や品質改善を実現しようとするものである。」(日本バイオスティミュラント協議会,2023,https://www.japanbsa.com/biostimulant/definition_and_significance.html)とされています。
今回使用するBS資材は、ヤマガタデザインアグリ株式会社が取り扱っているマイコスWPです。菌根菌を含んでおり、作物の根に共生することで養水分の吸収を助ける働きがあるとされています。
最終更新日2023.09.04
5/16 堆肥施用
圃場に堆肥を施用します。
慣行、有機に関わらず有機物の投入は推奨されており、大豆のように地力窒素の利用が大きい作物では特に重要だとされています。
使用機械
・RTS25(ヰセキ)
・積み込みバケットマニア(㈱デリカ)
最終更新日2023.09.06
5/17 耕耘
昨日の堆肥を土に混ぜ込みます。作業は今春入社した新入社員にしてもらいました。
大豆は開花期以降に生育が旺盛になり、窒素吸収が多くなる性質を持っています。そのため、徐々に肥効として現れる地力窒素が大豆の窒素吸収に重要です。また、根に共生する根粒菌は大気中の窒素をアンモニアに変換(窒素固定)し、大豆の窒素源になっています。過剰な施肥はむしろ根粒菌の活性を阻害するといわれています。
堆肥を施用し地力窒素の向上に努めました。
使用機械
・NTA365-Z(ヰセキ)
・SKS1800ニプログランドロータリ(松山㈱)
最終更新日2023.09.07
5/17 明渠
大豆は出芽時の土壌水分が過剰だと出芽不良となります。そのため水田から転換した畑では排水対策が必要です。この圃場は元から畑ということと隣の圃場より陸田になっているので、ある程度排水性は持っています。今回は額縁明渠を施工し、圃場内に水がとどまらないようにしました。
使用機械
・NTA365-Z(ヰセキ)
・ニプロリターンデッチャRD252(松山㈱)
※写真は別圃場の物です
最終更新日2023.09.07
6/6 施肥①
有機栽培ということで、肥料は有機JAS適合のものを使います。
今回肥料はイノチオプラントケア株式会社さんの製品を使用しました。施肥前にイノチオプラントケア株式会社さんに土壌分析と施肥提案をしてもらい、それに沿って施肥します。土壌分析に沿った施肥をすることで無駄のない施肥につながります。分析してもらったところ石灰とカリの不足がみられたため、それを補う資材を提案していただきました。
施肥した資材
以下、イノチオプラントケア株式会社取扱い
・貝化石草木灰(カリ、微量要素)
・カルフレッシュ(カルシウム、アミノ酸、ミネラル)
・ボカハイ574B(有機質発酵肥料)
・リン酸グアノ(有機質肥料)
使用した機械
・NTA365-Z(ヰセキ)
・SKS1800ニプログランドロータリ(松山㈱)
・RD2017グランドソワー(㈱タイショー)
最終更新日2023.09.08
6/6 施肥②
施肥と同じタイミングでBS資材を散布します。使用した資材は、ヤマガタデザインアグリ株式会社のYFFプレミアム1号です。きのこ菌床に菌根菌、二価鉄が配合されています。菌根菌は植物根に共生し養水分吸収を助ける働きがあると期待されています。比較区を設け生育の様子を追っていきたいと思います。
最終更新日2023.09.08
6/27 播種準備
品種はタチナガハを播種します。作期は6月中下~11月上で栽培します。早播きは茎葉部の生育が旺盛になり青立ちや倒伏しやすいといわれています。逆に遅まきでは地上部の生育が足りなくなるということもあり、適期播種が重要となります。例年高温で生育の進みが早いのであまり早播きせず、6月下旬の播種としました。
有機栽培では種子の生産段階から有機的な管理がされたものが必要です。小売店などから有機用種子の調達が難しい場合、生産者自身が有機的管理をした自家採取種子を使用する場合もあり得ます。
この時注意が必要なことは、種苗法で登録品種の自家増殖が育成者権者の許諾に基づいて規制されているということです。栽培にあたっては農水省HPや普及センター等で情報収集・相談確認が必要です。
今回は資材、栽培の検証の側面が大きく、完全に有機JAS規格に則ることは難しいため、種子は一般販売されている物を購入しました。(この場合は有機JAS認証には不適合だと思われます。)
播種にあたって、種子にも菌根菌資材ヤマガタデザインアグリ株式会社のマイコスWPを塗布しました。
最終更新日2023.09.08
6/27 播種
栽植密度は下記の通りとしました。
・条間75㎝
・株間15㎝
・2粒播き
湿害が起きると苗立ち不良の原因となるため、アッパーロータリでうねを成形しながら播種を行いました。
大豆は栽培中に中耕作業を行います。うねが曲がっていると作業効率や作物を傷めてしまうかもしれません。作業に使用したトラクタは自動直進機能を有しており、基準線に対してまっすぐ進むよう自動でステアリング制御します。ハンドル操作の必要性が無いため作業姿勢に注力することができ作業能率、疲労低減につながりました。
使用した機械
・NTA365-Z(ヰセキ)
・ニプロアッパーロータリAPU1610H(松山㈱)
・目皿式施肥播種機TFRG(アグリテクノサーチ㈱)
最終更新日2023.09.08
7/4 播種後1週間
大豆は基本播種から1~2週間で発芽します。7/4時点で発芽する気配が見られません。とても不安になり、社内で栽培経験のある先輩に見てもらいました。おそらく水分不足で発芽しないのではと。
うねを立てたことがかえって過乾燥になってしまったようです。水田転換で無い畑の場合は平播きにすべきでした。また、晴天続きの時は4~5㎝くらいの若干深めの播種深度にした方が良いとのアドバイスをもらいました。
ひとまず畝間に入水し、様子を見ることにします。
最終更新日2023.09.08
7/10 発芽
7/10まで2度入水したところ、なんとか発芽してくれました。まとまって欠株になっていると雑草や生育の面で影響が出そうなため多少補植を行いました。
7/7
7/11
最終更新日2023.09.08
7/14 初生葉展開
ある程度生えそろってきました。
子葉の次の初生葉が展開しきっています。雑草の芽も見え始めそろそろ中耕作業を考える時期です。
最終更新日2023.09.08
7/19 中耕作業①
中耕培土1回目は第2本葉展開期(主茎長12~15㎝)に行います。中耕培土をすることで適度な断根ができ、新たな根が形成されることで生育促進、倒伏防止につながるとされています。また、雑草を抑制します。
土寄せは初生葉節までかぶせるようにしました。
使用機械
・JKZ23(ヰセキ)
・CR23-HMB(ヰセキ)
最終更新日2023.09.12
7/31 中耕作業②
2回目は第5本葉展開期ごろ初生葉節まで土寄せします。この時期に中耕し雑草を取り除ければ、後は葉が茂り草の発生を抑えます。天候はむしろ良すぎるくらいで作業的には良いですが一雨来てほしいくらいです。
使用機械
・JKZ23(ヰセキ)
・CR23-HMB(ヰセキ)
最終更新日2023.09.14
8/5 開花期
開花期を迎えました。花芽は茎の節部分に現れその後、莢をつけます。開花期以降は過乾燥になりすぎないように日照りが続くようであれば潅水をします。お盆休み前に一度うねま潅水を実施しました。また、合わせて草刈りを行いました。
最終更新日2023.12.26
8/18
お盆休み明け、生育調査をしました。昨年隣の圃場で栽培した際ハンミョウが発生し葉を食害しました。昨年ほどでは無いですがやはりハンミョウがおり、葉を食害した跡がありました。有機では昆虫類を防除する農薬が無く、耕種的防除が重要です。
最終更新日2023.12.26
9/12
9月に入ってから葉の病変が見られるようになりました。外見から判断すると、大豆べと病、大豆葉焼病、大豆斑点細菌病と似ているように思いました。それらは種子の段階で罹患していると発病するとあり、今回は有機体系ということで種子消毒をしていないので可能性として考えられます。
また、圃場内を少し入ると、葉にハスモンヨトウがいました。ハスモンヨトウの食害被害ともよく似ていると思いました。発生密度は高くなく許容範囲と判断し様子を見ました。
最終更新日2023.12.26
9/29
収穫まで1カ月ごろとなってきました。200㎏/10aほど採る圃場の大豆と比べれば、6割くらいの莢付きに見えます。莢の膨らみも弱いと感じました。8月~9月に適宜かん水をしていましたが、8月にほとんど雨が降らず、高温の影響があるのかなと思います。この時期までくると手の打ちようが無く見守ります。
隣の圃場では別のテストの関係で水が張ってあります。その影響かアマガエルが大豆にいました。農薬を使用しない栽培体系ではカエル等天敵生物を上手く利用することが重要だとされています。
圃場周りは草が生えていたためロータリで防除しておきました。
最終更新日2023.12.26
10/17
10月半ばに差し掛かり本来であればこの時期が収穫時期です。茎の上葉は枯れ落ちてきていますが全体として青々としています。茨城では10月になって雨の日が多く秋雨でした。最近は初夏~晩夏にかけて雨が少なく、秋に雨で中々ちぐはぐな天気だと感じます。収穫は伸ばすことにしましたが、天気に対応できる栽培をしなければならないと感じました。
最終更新日2024.01.31
11/24 サンプリング
収穫サンプリングは11/24に行いました。依然作物体、子実の水分値は高いまま、これ以上収穫を後ろに倒すと実がはじけて収量の計測が難しくなるため収穫の判断をしました。青立ちの特徴が顕著に表れていました。
最終更新日2024.01.31
まとめ
1試験区につき10株×2か所の計20株をサンプリングし、10株当たりの平均値から収量を算出しています。
・収量は無処理区とマイコス区で大きな差は見られませんでした。
・R4年度の全国平均収量は160㎏/10aとあり、それに比べると低収となりました。低収要因として、①青立ち ②圃場のポテンシャルが考えられます。
・①青立ちについては、今年6月~9月の平均気温は平年値より2~3℃高く、今年7~8月の月あたりの日照時間は平年値より100h以上あったため、高温と乾燥により青立ちが助長されやすい気象条件でした。また畝たてにより土壌が過乾燥になっていたことも要因と考えられます。
・②圃場のポテンシャルについて、大豆は地力窒素の要求量が高い作物です。作付けした圃場は前作に作付けが無い状態でした。土壌分析を行いリン・カリ・塩基バランスの補給は行いましたが、地力窒素は年々土づくりをしていくことで改善していきます。今回は資材の検証という面が強いのですが、収量を確保するという面では大豆の他、裏作の作付けも検討する余地があることが分かりました。
・10株あたりの面積はマイコス区の方が狭く、すなわち面積当たりの株数が多い結果となり、マイコス区の方が苗立ち率が良かったと考えられます。マイコス菌は植物体へ養水分の吸収を助ける効果があるとされているため、乾燥状態での苗立ち率向上につながった可能性が考えられます。
・今回1年の作付けでは最終的な収量の差は見出せませんでしたが、苗立ち率向上の傾向は見られたため、最終的な収量に結び付けられるよう土づくりや管理作業など総合的に取り組むことが重要です。