機械化一貫体系でたまねぎを栽培してみた

たまねぎは家庭用から加工用、業務用まで用途が幅広く需要が安定している作物で、水稲に代わる収益源として水田を畑地に転換した「水田転作」での作付けが進んでいます。

今回は神奈川県の協力農家様圃場で実作業時間を計測し、たまねぎ栽培機械化一貫体系の採算性の検討を行っていきます。

機械化一貫体系でたまねぎを栽培してみた

うね立て・施肥

2020年12月9日 うねたてと施肥を行います。

(株)ササオカの畝立整形機「だい地くん」に(株)ジョーニシの肥料散布機「サンソワー」をとりつけ、うねたて同時施肥を行いました。

サンソワーは車速に応じて肥料の投下量が調整される、GPS車速連動機能がついており、車速を気にすることなくムラなく施肥することができます。

ISEKIのトラクタRTS25にササオカのだい地くんとジョーニシのサンソワーでうねたて同時施肥

機械化体系でのうねたて時のポイントとして、収穫までに使用する機械に適応したうね寸法にすることです。型式によっても適応幅が異なることがあるので注意しましょう。

今回の実証では下図のようなうね体系としました。

機械化一貫体系でのうね寸法の一例を示したイメージ図
機械化一貫体系でのうね寸法の一例 (単位:cm)

〇使用機
トラクタ:ヰセキ RTS25
整形機:(株)ササオカ だい地くん STR3CDRM
施肥機:(株)ジョーニシ サンソワー G-R10N-3

〇所要時間:56分/10a (作業者1名)
※6aの時間をもとに10aに換算

移植

2020年12月9日 うねたて後移植をしていきます。

移植機はPVHR400-145T2Dを使用します。

たまねぎは初期活着が生育に影響しやすい作物です。今回使用するPVHR400は移植時のたまねぎの活着を助ける様々な機能が搭載されています。

  • 作業者は機械の進行方向に対して後ろ向きで乗車するため、苗の植え付け状態を確認しながら作業できます。
  • 植付け同時かん水機能があるので、活着時に水分を必要とするたまねぎの生育を助けます。
  • 植付け部のホッパーが横開きのため、苗の引き倒しを軽減します。

〇使用機械
移植機:ヰセキ PVHR400-145T2D

〇移植条件
植付け条数:4条
株間:12㎝
条間:20㎝

〇所要時間
3時間15分/10a(作業者2名)
※6aの時間をもとに10aに換算

移植機PVHR400でたまねぎを移植している画像

防除

2021年4月13日 病害防除を行います。

気温が上がるにつれ、病害の発生も増えてきます。

乗用管理機を使用して病害の多発前に防除を行っておきます。

ISEKIの乗用管理機JKB17とブームスプレイヤーVBS500による病害虫防除の作業風景
スプレイヤーから液剤が散布されているところの拡大イメージ

〇使用機械
乗用管理機:ヰセキ JKB17DH2NU
ブームスプレーヤー:VBS500

〇所要時間
6分/10a
※6aの時間をもとに10aに換算

収穫

2021年6月15日 収穫作業を行います。

たまねぎは茎葉が圃場全体の5~8割に達した頃が収穫期となります。関東では収穫期が梅雨にあたるため、スピーディーな収穫作業が重要になってきます。

収穫に使用したVHU20はたまねぎの引き抜きと茎葉部の切断をしていく機械です。茎葉の切断長さは4~20㎝に調節することが出ます。

今回の実証では、収穫後はコンテナ貯蔵で茎葉部を切除する必要があったため、引き抜きと茎葉処理を同時に済ませることができました。

VHUで引き抜き後、たまねぎピッカー(VHP101T)でコンテナに収容していきます。いっぱいになったコンテナは圃場にスライドして降りるため、大きな力が必要なく楽にコンテナ収容作業ができました。

今年は梅雨で収穫できるか危ぶまれましたが、機械を使用することで梅雨のわずかな晴れ間に収穫することができ、一安心です。

ISEKIのたまねぎ収穫機VHU20でたまねぎを収穫している画像。引き抜きと茎葉処理が同時に行える
ISEKIのたまねぎピッカーVHP101Tでたまねぎをコンテナに収容している画像

〇使用機械
たまねぎ収穫機:ヰセキ VHU20
たまねぎピッカー:ヰセキ VHP101T

〇所要時間
①引き抜き作業:2時間33分/10a(作業者1名)
②コンテナ収容作業:5時間17分/10a(作業者2名)
③コンテナ運搬作業:20分/10a(作業者3名)
①~③合計時間:8時間10分/10a
※6aの時間をもとに10aに換算

実証結果まとめ

たまねぎ栽培は主要作業に付随した作業(例えば移植時のかん水や、引き抜き時の茎葉処理など)が多く、今回の実証では機械によって同時に済ませることができ、省力的に作業を進めることができました。

ほとんどの作業は2名以内での作業が可能であり、少ない人数で作業ができる点も機械化体系のポイントだと感じました。

今回の実証での作業時間、使用機械費についてまとめてみました。

うね立て~運搬までの作業時間は12時間39分となりました。

機械化体系での栽培面積の目安

機械を使うと効率よく作業可能なことは実証を通して感じました。

しかし、実際にはどれくらいの面積まで作業可能なのか?この点があいまいでは実際の栽培には踏み切れません。そこで、実証での計測データを基に機械化体系での栽培規模の目安の試算をしてみました。

〇1日に収穫可能な面積は?

実測値から試算すると収穫(引抜き・拾い上げ・運搬)に10aあたり8時間10分かかっており、1日(7時間)に収穫できる面積は8.5aとなります。

収穫にかかる作業時間は全体の65%を占めています。そのため、栽培面積を決める際は、適期で収穫できる規模が目安となります。

たまねぎの機械化一貫体系の実証試験における10aあたりの各作業時間の割合を示した円グラフ
収穫時間の実測値から試算した1日の収穫可能面積を示した図。1日を7時間と仮定した場合、面積は8.5aまで対応できる

〇適期収穫できる栽培面積は?

たまねぎの収穫適期は品種にもよりますが、約10日間です。1日8.5a収穫とすると10日間での収穫面積はおよそ85aです。

収穫期の異なる品種を栽培することで適期収穫できる面積を増やすことができます。

<収穫期の異なる4品種を作付けした例>
4品種を組み合わた場合、適期収穫できる面積はおよそ340aとなります。

適期で収穫できる栽培面積と品種のバリエーションを表したチャート図
※収穫適期:10日間で試算
※85a x 4品種 = 340a

機械化体系での収支試算

栽培面積ごとに機械化体系導入時の収支試算を行いました。

85a作付けでは+178万円、100aの作付けでは+242万円、340aの作付けでは+1268万円となり、栽培面積を広げることで大きく収入増となりました。

単位:万円
面積収入支出合計支出内訳収入 – 支出
機械償却費肥料・農薬費
85a39221418529178
100a46121918534242
170a78324218557541
340a1,5683001851151,268
面積85a100a170a340a
収入3924617831,568
支出合計214219242300
機械償却費
(支出内訳)
185185185185
肥料・農薬費
(支出内訳)
293457115
収入 – 支出1782425411,268

※機械償却費は、今回使用した機械の金額から算出
※支出には、種苗費・資材費・人件費・その他経費を含みません
※たまねぎ単価:96円/kg (過去10年間の平均価格 農水省統計より)
※当社調べです

より広い面積にチャレンジ!という場合は、作業者・機械追加の検討・大規模向け作業機導入がポイントです。

執筆者

井関農機(株)

井関農機(株)

農業機械の開発、製造、販売を行う農業機械総合専業メーカー。1926年創立以来、農業の機械化・近代化に貢献。魅力ある「農業=儲かる農業」の実現に向け「ハード(農業機械)」と「ソフト(営農技術)」の両面からお客さまの営農スタイルに合ったベストソリューションの提供に取り組んでいる。

執筆者

井関農機(株)

井関農機(株)

農業機械の開発、製造、販売を行う農業機械総合専業メーカー。1926年創立以来、農業の機械化・近代化に貢献。魅力ある「農業=儲かる農業」の実現に向け「ハード(農業機械)」と「ソフト(営農技術)」の両面からお客さまの営農スタイルに合ったベストソリューションの提供に取り組んでいる。